淋れた魔法




15時27分の校舎は、部活動がある生徒は部活へ、バイトや遊びがある生徒は帰宅して比較的静かになる。

そんな放課後、おれは部活でもバイトでもなく、廊下を軽く走りながら別の場所へ向かう。

クラスメイトに知られたら「似合わねー」と笑われるのは目に見えてるから遊びの誘いはテキトーに断って、本当のところは誰にも言わない。


おれだけの時間。
おれだけの、ゆり先輩。


図書室に入ると、そのひとは一番奥の窓際の特等席に座っている。

華奢な両手でお行儀よく文庫本を持つ。傷みを知らない艶のある黒髪と白い肌。上のほうまで留められたブラウスのボタン。きっちり結ばれた赤いリボン。糸で吊られてるみたいに伸びた背筋。…顔小さ。

毎日見てるのに他の誰よりも緩くまぶしく見えて、そのきれいな存在におどろいてしまう。


まつげの影が頬に落ちる。
窓際の席って、これだからずるい。

ゆり先輩がきれいなことはあまり知られていないと思う。 カーストは見る限り底のほう。とにかく目立たない。自分を見せようとしない。ただひっそりと学校に通ってるだけ。

そんな控えめな、2学年上の青木(あおき)ゆり先輩。

< 2 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop