求められて、満たされた
9.執着
嫌な予感ほどよく的中する。

ここの所奈生ちゃんの雰囲気が明るくなったように感じることが多かった。

学校や、音楽活動が上手く行っているんだろうなとは思っていたけれどそれだけじゃない何かがあるような気がした。

彼氏でも出来たのだろうか。

そう思わせる変化が僅かだったがあった。

だからだろうか、体調を崩した日俺は夢を見た。

奈生ちゃんが男の人と肩を並べて遠くの方に歩いていて、俺がいくら追いかけても呼びかけても奈生ちゃんは気付いてくれない。

そして、しまいには奈生ちゃんの姿が見えなくなった。

そんな夢を見た。

だから、目が覚めて奈生ちゃんから連絡が来ていてホッとした。

初めて奈生ちゃんの方から連絡をくれたことが嬉しくて、つい夜中にも関わらず連絡をしてしまった。

悪夢を思い出すと怖くて震えた。

もしかしたら本当に連絡が途絶えてしまうかもしれない。

そんな不安に襲われた。

でも奈生ちゃんはその後も返信をくれた。

そうしたら、どうしても声が聞きたくなった。

俺が体調不良だからか、奈生ちゃんは夜中にも関わらずあっさり通話に応じてくれた。

奈生ちゃんの声を聞いた時、泣いてしまいそうになった。

熱が上がってきているのかもしれない。

頭がぼーっとしてきて、意識が薄くなっていく。

もしこのまま眠りについて今度目が覚めたら、あの悪夢みたいに奈生ちゃんが居なくなっているかもしれない。

ただの悪夢なのにそう思ってしまった。

そんな予感がした。

そう思ったら口が勝手に動いていた。

行かないで、と。

居なくならないで、と。

そう言ってしまっていた。

熱で頭が回らなくて、奈生ちゃんの気持ちを考えずに自分の気持ちだけが先走っていた。

でも、約束が欲しかった。

『私は、居なくなりませんよ?』

その言葉を聞いて俺は安心した。

そしてそのまま意識を手放した。
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