求められて、満たされた
1.偽装
世間は優しくはなかった。
常識という名の檻から外れてしまった人は嗤われて、罵られる。
だから私は自分を隠した。
私は正常で皆と同じ健常者でありたかったから、繕って、偽った。
そうする度に吐き気がしたけれど、そんなのは我慢した。
そうでもしないとこの世では生きていけないと知ったから。
上手に生きよう。
ある日、私はそう誓った。
夢も希望も本当の気持ちも全部、心の押し入れにしまい込んで無かったことにした。
私は、“私”を殺した。
「こんにちはー。アルバイトの面接で来ました。」
ゆっくり扉を開け、中に声をかける。
個人経営の小さめの居酒屋。
駅のすぐ近くにあるためよくここの前を通っていた。
その度に手書きでアルバイト募集中と書かれている貼り紙が目に入った。
そろそろバイトを始めようかなと思った時、ここの貼り紙を思い出して電話番号を検索し、昨日電話をかけた。
人手が足りなかったのか面接は翌日行われることになり、今に至る。
声が聞こえなかったのか、中は静まり返っている。
それに、人影も見当たらない。
まさか、誰も居ないとかでは無いよね。
「あの、すみませーん。」
さっきよりも大きめの声で呼びかけると、カウンターの方から勢いよく誰かが顔を出した。
それに少し驚く。