十六夜月と美しい青色

cry for the moon-得られない望み

 もうすぐ夜の帳から、暁の空に移り変わろうという早い時間に、結花は目が覚めていた。いつもとは違う部屋に、寝たままで髪をかき上げながら、昨日のことを思い出しながら微睡んでいた。

 「そういえば…」

 新着メッセージを伝えるスマフォのトークアプリを開けると、案の定、昨夜のうちに凌駕からのメッセージがあった。

『明日、きちんと話をさせてくれないか?時間は結花に合わせる。連絡を待ってるから。』

 ため息を付きながら、そんな一方的な文面を顔をしかめて眺めていた。

 「今更、何を話すつもりなのかしら…」

 結花は、バスタオルを巻いただけの姿で和人がバスルームから出てきていることにも気づかず、布団の中で膝を抱えるように体を丸めて呟いていた。そんな結花の様子を、バスルームのドアに持たれながら眺めていた和人は、笑顔で話しかけた。

 「おはよう。よく寝れた?」

 「あなたこそ。いつ寝てたのかしら」
  
 微笑んで、和人を見つめた。185cmは有りそうな身長と、無駄のないバランスよくついた筋肉に、濡れた髪をかきあげる仕草が一層艶っぽさを増し、男の色気が溢れ出ていた。濡れた髪をタオルドライしながら、ベッドに腰を掛けると結花の頬にかかっていた髪を中指で耳に掛けて、頬にキスを落とした。

 「改めて自己紹介させて。オレは梅崎和人。ここのバーには、週末の都合の良い日だけたまに手伝いに来てる。ここのオーナーが、大学時代の友達の親戚なんだ。普段はサラリーマンをしている。それに実を言うと、結花のことも知っている」
 
 そう言うと、ベッドサイドに置いていた鞄の中から出した名刺を結花に渡した。そこに書かれていたのは、実家の茶舗が出店しているショッピングモールの名前と営業課長の肩書、そして梅崎和人の名前だった。一瞬の間を置き、眼を見開いた結花が驚いて声を上げた。

 「えっ、もしかして昔、柊吾と一緒にいた、あの和人なの???」
 
 結花は飛び起きてベッドの上に座り込むと、名刺と和人を交互に見ながら驚きを隠せなかった。

 「ああ。やっと気づいてくれた?時々、モールの開店前の巡回で結花のことを見かけていたのも、全然気づいてなかっただろ。大体、あの和菓子屋の配達の奴と話し込んでることが多かったもんな。柊吾からも、奴と結花が来春結婚することは聞いていたから、昨夜お前がバーに来た時は驚いたよ」

 結花はあっけにとられながら、記憶の中の和人を手繰り寄せる。背だって今よりも低かったし、もっと華奢な感じしかなかったのに。

 「でも和人だって、全然あの頃と雰囲気が変わってるから、本当に気づかなかった。背だって、凄く高くなってるし。こんなに、大人っぽくなってるのに直ぐには分からないわよ」
 
 「そりゃあ、柊吾と同い年だぜ。もう32歳になるのに、子どもっぽい方がどうかしてるだろ。まあ、身長は高校卒業するころも伸びてたからなあ。それを言うなら、結花だって実家の茶舗のモールのテナントに手伝いに入り始めた時、昔のあどけなさも残ってなくて凛とした雰囲気漂わせてて一瞬誰かわからなかった。それこそ、柊吾から聞いてなければ結花って気づかずにいたかもしれないし」
 
 「そんなに変わったかしら…」

 俯きながら、かすかに紅潮する頬を片手で覆うように隠した。

 「ああ、昨夜は特にだけど、いい大人の女性になったと思うぜ」

 「もう…」
  
 真っ赤になった顔を見られないようにと、和人の背に額を押し付けて、後ろから両手を回し胸板に触れる。 
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