家出少女は不器用王子と恋をする。
雨と傘
梅雨入り。
雨。
午前8時12分。
遠山駅北口前。
通勤ラッシュの真っ只中。
びしょびしょの制服。
私は駅の入口でうずくまっていた。
その隣には1泊分のボストンバッグ。
中には財布、定期、通帳、水道水の入った水筒、グレーのパーカー、中学・高校のジャージ、ボロボロの下着2組のみ。
これだけではとても生活していけない。
でも家にも帰れない。
だって私は家出してきたから。
正確には追い出されたんだけど。
このまま私はただ餓死していくだけなんだと思った。
それで構わないと思った。
「ねぇ、何やってんの?」
聞き覚えのある声がしたかと思うと、雨に当たらなくなった。
私に傘を差し出してくれて話しかけてきたのは、仁坂(にさか)。
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