こうして魔王は娶られましたとさ。
結婚の決め手は「身に覚え、あんだろ?」

 じわり、少しずつ、けれども確かに、滲み始めた視界。

「てことは、なぁ、魔王さま。俺が言いてぇこと、分かるよなぁ?」
「すっ、すまな、かった、お前の、気持ちをまがい物扱いして、」
「だよなぁ? 俺すげぇ傷付いたんだわ」

 じり、じりり。少しずつ、けれども着実に近付いてくる、鍛冶屋の息子ロヴァルの顔と身体。僕の良心を抉るかのように、悲しかった、辛かった、信じて欲しかった、その他諸々エトセトラを呪詛のように吐き続けるその男は、するりと、さも当然のように僕の腰へと腕を回した。
 こいつ……!
 どさくさ紛れにセクハラを始めたロヴァルの腕をさりげなく押し退けながら、一歩、後ろへと下がる。

「しっ、しかしだな、僕は、魔王だ。僕は、僕より強い男としか結婚しない……しない! からな!」

 人間と魔族ではやはり価値観が異なる。
 ロヴァルの、これまでの言動が呪いによるものではなかったからと言って、はいそうですか、とはならない。
 大事なことだからもう一度言うが、魔族は、強さが全てだ。とりわけ種族にこだわっているわけじゃないけれど、僕の結界を破ったぐらいではまだまだ話にならない。魔王の伴侶となる者ならば、最低でも同等の強さがなければ。

「お前の言う強さ、ってぇのは、どういうやつだよ?」
「どう……?」
「端的に、精神的なものなか、肉体的なものなか、両方か」

 否定はやめよう。けれども、やはり享受はできない。
 俯瞰(ふかん)する青をぎろりと大げさに睨み付け拒絶を吐き出すも、間髪入れず返された疑問符に勢いは瞬殺された。
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