運命なんて信じない
もう一人の王子
賢介さんと美優さんの熱愛報道後、私はさらに賢介さんから距離を置くようになった。
出来るだけ視界には入らず、関わらないでいようと心掛けた。
賢介さんの方も仕事が忙しいらしく、私と話す機会も減っていった。
しかし、そんな中でも週刊誌やワイドショーでは2人の熱愛報道が続いている。

「専務って、やっぱり谷口美優と結婚するのかしら」
お客様も途切れ暇になった受付で、彩佳さんがつぶやいた。

「さあ」

そんなこと私が知るはずもないし、どちらかというと私の方が聞きたいくらいだ。

「琴子ちゃん、怒ってるの?」
マジマジと私の顔を覗き込む彩佳さん。

え?

自分では平気なつもりでいたのに、彩佳さんには怒ったように映ったらしい。
誤解を与えない意味でも、態度には気を付けないといけないのに。

「そう言えば、昨日も谷口美優が専務を尋ねてきたって秘書課の友人が言っていたわ」
「へー、そうなんですか」

やっぱり、二人の縁談はすすんでいるんだ。
そりゃあ価値観の合わない私とより、住む世界が同じ美優さんといる方がいいものね。
それなのにウダウダと悩んでいた私って、本当に馬鹿。
冷静に考えれば、私と賢介さんでは釣り合わって分かることなのに・・・

「ちょ、ちょっと琴子ちゃん。どうしたの?」
彩佳さんが慌てている。

何?
訳の分からない私は、その場で固まった。

「もう、何しているのよ」
ポケットティッシュを出した彩佳さんが、私の口元を押さえた。

あっ。
押さえてもらったティッシュに血が滲んでいる。

ヤダ、私。
無意識のうちに唇を噛んでしまったらしい。
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