運命なんて信じない
二日酔いにはご注意を
「ではこれで一連の新入社員研修は終了です。明日からは各配属先での勤務となりますので、皆さん気持ちを引き締めて頑張ってください」
「「ありがとうございました」」

講師を務めてくださった先輩の言葉に、新入社員全員でお礼を言い2ヶ月にわたった研修が終了した。
この後、明日には配属先が発表されて実際の勤務に就くことになる。

「琴子、この後予定がある?」
帰り支度を終えたところで、麗が訊いてきた。

「別にないけれど、」
「じゃあ、家で飲もうよ。ママが、仕事の打ち上げでお酒をたくさんもらってきたの。翼も来るから。いいでしょう?」
「いいけど。お邪魔して大丈夫?」

確か、麗のお父さんは自宅で出筆活動をしているはず。邪魔してもいいんだろうか?

「いいの。パパは締め切り前で、ホテルに缶詰だから。今日はいないのよ」

なるほど。

「翼、7時にうちのマンションよ。場所分かるわね?」
すでに立ち上がっている翼に、麗が声をかける。

一方翼は、OKと手で合図をして出て行った。

「じゃあ、私もお邪魔するね。何か持って行こうか?」
さすがに手ぶらじゃ申し訳ない。

「いいの。食べるものはばあやに頼んできたから」

はーん、ばあやね。
時々忘れそうになるけれど、麗もいいところのお嬢さんだった。
彼女の言う『ばあや』とは、麗が生まれたときからいるお手伝いさんで、忙しいお母さんに変わって麗を育てたような人なんだとか。
今は通いで週に何度か来るらしいけれど、麗が高校までは住み込みで世話をしてくれたらしい。
お金持ちって、庶民には想像できない生活があるのね。
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