運命なんて信じない
さすがに最寄り駅までは人も多く、そんなに遅くなった気はしなかった。
しかし、自宅に向かうにつれて減っていく人影。
高級住宅街だけに、近くにコンビニもないから余計に人通りがない。

「なんだか寂しいな」
思わず呟いていしまった。

早足で家まで向かい、静かに玄関の鍵を開ける。
いつもはチャイムを鳴らすけれど、さすがに10時半過ぎている今日は自分で鍵を開けた。
物音をたてないように玄関で靴を脱ぎ、リビングへ向かい、そろりとドアを開ける。

あ、
「賢介さん」
「琴子、お帰り」

嘘。
もしかして、
「私を待っていたんですか?」
「琴子が帰らないと、心配で寝付けないんだよ」

そんなあ・・・
無意識のうちに目頭が熱くなった。

「バカだなあ、泣くなよ」

いつの間にか私の前に立った賢介さんが、ポンポンと背中を叩く。
私は無言のまま、賢介さんの肩口に額を乗せた。

「琴子、これからも困ったことがあればまずは俺を呼んでくれ。必ず俺が助けに行くからな」
「フフフ、スーパーマンみたいね」
照れ隠しにおどけて見せたのに、賢介さんは真剣な表情で、
「そうだ、琴子限定のスーパーマンだからな」
そう言うと、クシャっと私の頭をなでる。

お願いそんなに優しくしないでと、私は心の中でつぶやいた。
今まで誰かに守られたことがないから、人の優しさに免疫がなさ過ぎてどうしたらいいのかさえ分からない。
賢介さんから感じる温もりの中で、この時の私はただ戸惑っていた。
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