運命なんて信じない
電話を切ってからしばらく、自分の中で考えを巡らせた。

やはり、ここは私のいるべき場所ではないのかもしれない。
私がいることでみんなに迷惑がかかる。
結局そんな結論に行きついた。

「あら琴子ちゃん。起きていたのね」
ちょうどその時、飲み物を持った奥様が部屋に入ってきた。

「心配かけてすみません」
「いいのよ、看病なんて本当に久しぶりだもの」

賢介さんにも奥様にも迷惑をかけてばかり。
やはり私がここにいれば、誰かの負担になってしまう。

「あの、奥様。今日って、私が麗の家に泊まりに行ったらダメですか?」
「え?」
驚いた顔と、なぜ?って視線が私に向いている。

「話したい事があったんですが、言いそびれたし。それに、もうすっかり元気ですし・・・」

優しい奥様のことだから、「いいわよ」と言ってくれるものと思っていた。
そのまま今夜は麗の家に泊めてもらって、今後のことを考えるつもりでいた。
しかし、

「そうねえ。今日はやめておきなさい。週末まで待てないの?」
珍しくいいとは言ってくれない。

「そうですね。分かりました」
私は素直に返事をし、
「よかったわ」
と奥様は出て行った。

昨日の今日だから、心配する奥様の気持ちもわかる。
それでも、私は諦められなかった。
奥様がいないうちに手早く荷物をまとめ、庭に面した掃き出し窓からこっそりと平石家を抜け出した。
< 56 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop