【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
ハンバーグとマンゴーと
 ある夕ご飯の時間。
 今日は北斗も陸上部や撮影がなかった日のようで、早く帰ってきて、みんなでご飯を食べることができた。
 みんなでご飯を食べられる日は、あまり多くない。お父さんの仕事が長引く日もあるし。
 だから今日は楽しい夕ご飯の時間だった。
「そうなの、保育園ねぇ。いいわね」
 美波は来週、所属している合唱部の活動で保育園へ行って、合唱を披露するのだという話をした。
 お母さんは嬉しそうにそう言ってくれた。
 美波は大好きなハンバーグをお箸で切りながら、続ける。
「うん! 子どもたち、喜んでくれるといいなぁ」
「美波が頑張れば、きっと喜んでくれるさ」
 お父さんは珍しくビールを飲みながら、笑ってくれた。
 それは美波に自信をくれた。
 それに、北斗も言葉少なではあったけれど、「いいんじゃないか」と言ってくれた。
 ご飯を頬張って、もぐもぐしながら言ってくれたそれに、美波は嬉しくなった。
 北斗は自分のことを認めてくれているのだ。
 合唱部の活動だって、北斗の陸上部ほど本気の活動ではないのに、「楽しくできるのが、いいって部活もあるだろ」と言ってくれることもあるのだ。そう言ってもらえるのは、やはり嬉しくて。
「そういえば、北斗くんも週末、撮影があるのよね? 結構大きいのが……」
 お母さんが、ふと、北斗に話を振った。
 美波は何気なく、にんじんのグラッセ……甘く煮られてとてもおいしい……を、つまみながら北斗のほうを見たのだけど、北斗の返事にはどきっとしてしまった。
「はい。【スターライト ティーンズ】の撮影で……。結構たくさん撮るんで、土日両方出かけます」
 【スターライト ティーンズ】の撮影。
 きっとあれのことだろう。
 向坂 聖羅という子とのデート特集。
 美波の胸は、またざわりとしてしまった。
 美波はぱくりと、にんじんのグラッセを口に入れた。
 バターとお砂糖で煮られて、とっても甘い、はずなのに。
 何故か今日のものは、少し苦いように感じてしまった。
「あら、そうなの。それは大変ね。お弁当とかいるかしら」
「いえ、事務所のほうで取ってくれるんで、大丈夫です」
 お母さんはそう言ったけれど、北斗はそう言って、断っていた。確かにお弁当が出るのが普通だとか聞いたことがある。
「北斗くんはすごいよな。今度の陸上大会にも出るんだろう」
 お父さんも北斗にそう話しかけていて、北斗も微笑を浮かべて「はい。短距離一本だけですけど」と答えていた。
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