弱みにつけこむとか最低ですね




『望月、片付け終わったら残ってろ』



低く響いた声にビクリと肩を震わせた。


今日の試合が終わって、お疲れさま。さぁ、一旦解散。皆、打ち上げ場所に集合なーってなった直後に言われた台詞。



『俺と望月、遅れて行くから』



キャプテンから副キャプテンへの伝達事項…。

聞こえた部員の何人かが、気の毒そうな顔をして去っていく。


いえ…、はい。わかってますよ。

今日は失敗続きだったもん。



試合だって惨敗で。見るも無残な負け方に、もう涙さえ出なかった。


だから、超ご立腹の香坂キャプテンに呼び出しくらうのも必然で。


それが部員一…いや、下手したら運動部で一番怖い…もとい、厳しいと評判の彼に半殺しにされても、もう文句は言えないわけで。



そういえば、前回の練習試合でも怒られたっけ…。


負けた後に言われた言葉は、『お前、向いてないよ。やめれば?』だったし。


心を入れ替えて自主練を始めるべく、決死の覚悟で「キャプテン、練習つき合って下さい!」と言った私に返ってきた言葉は、『は?知らねーよ。勝手にやれよ』とかだったし…。


言っちゃ悪いけど、あの人はキャプテンの人格じゃない。絶対に。



時間稼ぎに近い速度でゆっくりと道具の片付けを済ませると、トボトボと重い足取りで香坂キャプテンの元に向かった。


解散場所のフェンス側のベンチに座る彼は、誰かと話していて、随分と笑顔の多いそれに、相手は誰なんだろう?という興味で目を凝らした。


彼の横に立っているのは…、対戦校でダントツ人気のマドンナ、須本先輩だった。

俺、女には不自由してないぜぇオーラ出まくりの香坂キャプテンレベルになると、他校のマドンナの方からやってきちゃうらしい。


ま、キャプテンも笑顔多めでハンター仕様みたいですけど。



こうやって見ると、二人はお似合いだ。

優勝者どうし、美男美女どうし、他のものは寄せ付けない風格があって、私には程遠い世界だ。

いろんな理由で近寄りがたいことこのうえない。



私に気付いた香坂キャプテンは須本先輩と一言二言話すと、手を振ってお別れしてこちらを向いた。

さっきまでの笑顔はどこへいったんだろう?めちゃくちゃ怖いんですけど…。



「……すみません。お待たせしました」

『おう』



目だけで座れ、と言われている気がするのですが、怖くて体が動きません。


棒立ちの私をじっと見つめる彼。蛇に睨まれた蛙の図。


静かな鋭い視線から、そうっと目を逸らせば、



『今日の試合、何?』



短めにズバリと聞いてくる。

ダメージの与え方が半端ない。


無言で言葉を探していると、吐き捨てるようなため息が聞こえてきて、いよいよ体は固まった。




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