蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
私の上に覆いかぶさった香津美さんが衝撃に備え身を固くすると、私もそれにつられて瞳をギュッと閉じました。このままでは私の所為で香津美さんが、暴力を振るわれてしまうのに……!
けれどいつまで経っても、私や香津美さんをに振り上げられた手が下りてくることは無くて。
恐る恐る瞳を開いてみると、私達を殴ろうと振り上げた狭山常務の手首を、きつく掴んだ狭山さん。
そして部屋の入り口には厳しい表情をした柚瑠木さんも立っているではないですか。
「香津美、月菜さん。2人とも無事か?」
狭山さんがやってきたことで香津美さんが心底ホッとした表情を浮かべたのが分かりました。相手の事を信頼し、こんなにも想い合っているんですね。
そんな2人の仲を見ていると、羨ましくて仕方ありませんでした。それに比べて私と柚瑠木さんの関係は何なのだろうと思い知らされてしまうのです。
けれど……
「香津美さん、月菜さんをこちらに……」
いつの間にか私たちの傍まで来ていた柚瑠木さんが、香津美さんにしがみついていたまま離れられないでいた私に手を伸ばしてきて……
そっと私を受け止めて優しく抱きしめてくれたんです。初めてでした、柚瑠木さんが本当の妻にするように私に接してくれたのは。
だから私は普段は我慢している涙も、今は堪えることが出来なくて……
「柚瑠木さん、すみません……私、柚瑠木さんにご迷惑を……」
柚瑠木さんは私の涙を優しく手で拭ってくれます。私はそんな柚瑠木さんの上着をギュッと掴んでしまいました。今だけはもっと強く抱きしめられていたかったから。
「いいえ、月菜さんは何も悪くありません。僕は迷惑だなんて思っていませんから。」
柚瑠木さんは私に応えるよう、抱きしめていた腕に力を込めてそう答えてくれました。柚瑠木さんは私の事を、迷惑だと思わないでいてくれました……今はその言葉だけで十分です。
ホッとして安堵の笑みを浮かべると、目の前が真っ暗になりそのまま意識を失いました。