蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~


「えっ……あの、柚瑠木(ゆるぎ)さん……?」

 もしかして口付けされるのかと思いました。それほどまでに柚瑠木さんと私の距離は近かったのです。
 冷たくて真っ直ぐな柚瑠木さんの黒い瞳に見つめられると、上手く息も出来なくなりそうです。けれど私は目を逸らしちゃいけない気がして、柚瑠木さんをジッと見つめ返しました。

「……月菜(つきな)さんは、僕が怖くないのですか?」

「怖いって、柚瑠木さんの事がですか?」

 正直私には、柚瑠木さんの言っている事がよくわかりません。確かに柚瑠木さんの事がよく分からないとは何度も思いましたが、彼の事を怖いと思ったことは無かったので。

「月菜さんも見たんでしょう、酷く(うな)される僕の姿を。それを見て怖くなかったかと聞いているんです。」

 柚瑠木さんは確かに吃驚するほど魘されていました。だからってそんな理由で柚瑠木さんを怖がれと言うのでしょうか?私は自分の夫が苦しんでいるのを、そんな風には思えません。
 それに今の柚瑠木さんに対する私の気持ちは、怖いではなくて……心配なんです。

「私は柚瑠木さんの事が怖くありませんし、嫌でもありません。今は私に何かできることは無いかと考えています。」

 目を見開いて私を見つめる柚瑠木さんの手に自分の手を重ねて、もう一度繰り返します。

「私は……どんな小さなことでも良いので、柚瑠木さんの役に立ちたいんです。」


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