綾取る僕ら
冷蔵庫
「麻莉乃と上手く行ってないんだけど」

財布だけを持ってブラブラと揺れた手に見惚れる。
私はこんな手が好きだ。
漫画の中から出てきたような、男の人特有の手。
骨と血管が浮き出てるだけで、なんでこんなに良く見えるんだろう。

街灯だけが寂しく照らす夜の道。
二人の影が、つま先から伸びる。

「別れたら責任取ってよ」

手から横顔に視線を移すと、真っ直ぐどこか見つめたままの仁さんが言った。

「なんで私が責任取るんですか」
「だって綾香のせいだもん」
「意味分かんない」

私は視線を自分の両手に移す。
爪切ってないな、と指を折り曲げた両手を見つめて気付いた。
どうしよう、仁さんから「こいつ爪伸びてる」って思われたら。
そう思って爪を隠すように手を下ろす。

「責任取るって、なんですか」

私が見上げると、仁さんのゴリッとした喉仏が少し上下する。
少し下唇を噛んで考え事してる。

「別に」と言いにくそうに顔をしかめた。

「付き合って、とかそういうんじゃないけど」

そういうんじゃないんだけど?
私はその目を覗き込むけど、真っ直ぐに前を見続けてる視線と交わることはない。

「ちょっと」
「ちょっと?」

「んー」と顎のあたりを細長い人差し指でポリポリと掻く。

「遊びたい」

23時半。
学生ばかりが住むアパートの街に、静かに仁さんの声が響いた。

< 22 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop