幽霊でも君を愛する
第六章 それでも不安は拭えない
「じゃあこれ、皆に配ってくれ。足りない・・・かもしれないけど。食べ盛りがいっぱいいるか
 らな。」

「マジでありがとう!! 一食分食費が浮くだけでも大助かりだ!!」

「生々しいな、お前らしいけど。」

蔵刃も私と同じチャリ仲間である。でも彼の自転車は私の使う自転車とは違い、荷物を乗せられる場所がいくつもある。
これを使えば、ちょっとした宅配もできるんだとか。彼は私から受け取った大きな紙袋を、強引に籠の中に詰めた。
やっぱり結構量が多かったみたいだ。一緒に家まで運んであげようかと思ったけれど、私の分も温かいうちに、家で待っている牡丹に届けてあげたい。
蔵刃の家は私の住んでいるマンションと同じく、大学までそこまで距離がない。だがマンションではない。大家族なだけあって、マンションやアパートではとてもじゃないけど入りきらない。
私も何度か行った事がある。中古物件ではあるみたいだけど、風情がある日本家屋だ。長い廊下や広い畳部屋もあり、子供が住むにはうってつけ。
私もよく遊びに行っては、廊下で徒競走したり、畳部屋でバク転連続チャレンジなんかもしていた記憶がある。
蔵刃の弟や妹にも会った事があるのだが、言うまでもなく、本当にそっくりだった。仕草や口調まで似ていると、不思議を通り越して面白く感じる。
でも私の事まで『お兄ちゃん』と呼ばなくてもいいのに、何かと慕ってくれている。
若干蔵刃には申し訳ないかと思っていた時期もあったけれど、「弟や妹の面倒見てくれる人が増えるだけでも助かるよ!!」なんて言っていた。
蔵刃曰く、私は『聞き上手』なんだとか。私自身にその実感はないけれど、聞き上手は本人の意図とは関係ない特技なのかもしれない。
・・・まぁ、私に色々と雑談と持ちかけてくれるのは蔵刃だけと言っても過言ではないけど。私に牡丹がいるように、彼には多くのキャンパス仲間がいる。
こうして自転車をカラカラと押しながら会話をするのも、何だかんだ楽しい。話の内容が愚痴であったとしても、そんな時間を『損』と思わないのは、私自身も彼を認めている証拠なのかもしれない。
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