あの星空に、お願い。〜Prologue〜
イチバンボシ。



「いいよ。」



中学2年の夏休み、
人生で初めて告白と言うものを経験した。



好きです、付き合って下さい。
顔を真っ赤にしてやっとの思いで口に出した一言は
彼にもちゃんと届いていたようで。


同じように顔を真っ赤にした彼が目の前にいた。




「ただ、ごめん。
周りには付き合う事内緒で。
じゃ、じゃあ俺部活行くから。」


「うん、大丈夫!ごめんね部活前に呼び出しちゃって。
また、メールするね。」



彼の背中を追いかけながらにやにやが止まらない。

「いいよ。」と言ってもらえた一言が
頭の中でループする。



周りには内緒、それもなんだか
二人の秘密が出来て私には嬉しかった。

公園に大きく咲く向日葵もよかったね、と
言っているかのように風で大きく揺れた。




…ーーー

中学一年の入学式の後、
小学校からの友人に呼び出されて向かったC組のクラスには
恥ずかしそうにしている君島真広くんがいた。



「やめろってば!」



顔を真っ赤にしながら信彦の手を振り解こうとしていた。



「ひなた〜!この子がまひろくんだよ。」


みなみは楽しそうに私とその真広くんを近付けようとした。



その瞬間、ばっと信彦の手を離し男子トイレに逃げ込んだのだった。



「なんだ〜、ひなに会いたがってたから呼んであげたのに。ごめんね、ひな。」



「ううん、全然いいんだけど。」



初めは入学式早々、訳もわからずその日以来
真広くんの事を可愛い男の子、としか思えなかった。


でもそれをきっかけにどんな人なんだろう、
不思議と目で追う瞬間が増えていって。


サッカー部に真広くんがいるのを知った時
きらきらした彼を見て
「好き。」って言う感情が自然と湧き出てきたんだ。








「一年以上前だろ、懐かしいな。」

夏休みが空けて付き合えて一か月以上経った頃

私達は部活帰りにこうやって
秘密で学校の裏の小さい公園でデートをしていた。


「どうしてあの時私に会いたがってたの?」


「俺があの時、あ〜天気いいなぁ。
ひなたぼっこしてぇな〜って
ふいに言った言葉が、信彦と舘野(みなみ)の耳に入ったみたいでさ。
それで最初は無理矢理。」



「なんだ、そう言う事。」


真広くんが会いたがってたわけじゃなかったんだ、
少ししょんぼりする私に真広くんは笑った。



「でもこうやって仲良くなれた。
お前にはすげー感謝してる。」



そう笑う彼が凄く愛おしかった。



真広くんといる時間が過ぎるのはあっという間で
いつも2時間以上話し込んでしまっていた。



そろそろ帰るか、と真広くんがベンチから立ち上がり空を見上げた。


「見ろよ、すっげー綺麗。」



「わぁ、ほんとうだ。あの星一番、綺麗に光ってる。」

東京の星空は満天じゃないかもしれないけど、
真広くんと見る星空は何よりも綺麗だった。



「…一番星に願い事すると、本当に叶うのかな?」


「どう?やってみるか。」


そう言って、二人は目を瞑って手を合わせた。



まひろ、あの時あなたは何をお願いしたのかな。



私はね…。


…ーーー

―11月1日、00:00

日付が変わるなり携帯から
大音量で着信音が鳴り出す。


私は暗い部屋で暖かい毛布にくるまり
寝惚けながら携帯を開いた。

やばい寝てた…。



ん、誰だろう?

登録されていない知らない番号だ。



「もしもし?」


恐る恐る通話ボタンを押せば聞こえてきたのは、明るい声。



「あ~ひなちゃん?おれおれ!
お誕生日おめでと~う。」



後ろがざわついているのが
聞こえる。
居酒屋か何処かの店内だろうか。



「…おれおれ?詐欺かなんかですか?」



「お前誕生日なんだからさ~
もうちょっと可愛いこと言えないの?」


今日は私の19回目の誕生日だった。



「もしかして陸人?あれ、番号かえた?」

電話の相手は、中学時代からの友人だった。


「そうそう、てかお前と話したい人いるから
ちょっと電話かわるわ!」


周りがざわついていて何を喋っているか
全然聞こえない。

「え、なんて?!もしもし?」






「……もしもし、わかるか?」


数秒経ってから
受話器の向こうから聞こえてきたのは


紛れもなくあの人の声だった。


「ま、ひろ…?」

周りの音が一瞬にして消えた気がした。



「お~よくわかったな。そう、まひろ。
ひさしぶりだな、元気してた?」


「うん、元気だよ。まひろは?
陸人と呑んでるの?」


声がワントーンあがるのが自分でもわかる。


「俺も元気。そう、陸人とちょうどお前の誕生日だなって話になって、電話かけたんだ。」


少し声変わりしてるまひろの声がなんだか懐かしい。




「……誕生日おめでとう。市原。」


初めて彼が祝ってくれた。自分の誕生日。
相変わらず、名前では呼んでくれないけれど。


彼は私の初恋の相手―――。


「ありがとう、まひろ。」


私はまひろをもう好きじゃない。

あんなの何年も前の話。
周りから見れば、中学生の可愛い恋愛ごっこに過ぎない。


でも、何故だろう。
この人を思い出すと調子が狂う。




「俺、実はお前に謝りたくて。」



「え…?」


「あのときのこと。」

あのときのこと、と言ったら
あのときのことしかないんだ。



「どうして?」

私の声震えていないだろうか。


「市原は、今更何だよって
思うかもしれない。でもずっと謝りたかった。
お前のことたくさん悲しませたし。」



まひろの声が緊張しているのがわかる。
まひろもずっと想っていてくれてたの?



「許してほしい。」



その一言がわたしの心に響いた。



ずっとまひろも考えていたの?

私は一呼吸置いて口を開いた。



「そんなのとっくのとーに許してるよ。」


まひろが気にすることじゃない、と
一言添えて。



「ありがとう、市原。
俺ずっと中学卒業してからもお前のことがずっと突っ掛かってて、その…。」


後ろで陸人が暴れてるのが聞こえる。


「え、なに?!よく聞こえない。」

「えっと、つまり…【まひろは、ひなたのことが】うわあああ!
やめろよお前!」


まひろと陸人が暴れているのが
耳に響いて、つい携帯を耳元から離した。

(う、るっさ…)


「わりぃ!陸人酔っぱらってるから電話切るわ!」


「え、ちょ!」


一方的に電話を切られた私は
ツーツーと言う音を耳にして

“あのとき”のことを思い出していた。



まひろがずっと考えていてくれたのかと思うと

わたしはそれだけで嬉しかった。


(やっと聞けた。まひろの声。)


そっと、携帯を閉じてまた布団にもぐった。



あのときのわたしは
確かに辛かった。悲しかった。

初恋と同時に初めて失恋もした。
でも、それよりもとにかく幸せだった。


そして、確かにあなたを好きでした。


あなたを想っていた、あの三年間が
一気に頭によみがえる。



“あのとき―。”








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