きみと色々ありそうな夏
夏のケモノ


「ねえ、浦野(うらの)って、紙で指切ったことある?」

室外機が回っている教室のベランダ。今日は高温注意情報が出されているほどの真夏日だというのに、暑苦しいほど仲良しなカップルが中庭でお弁当を広げている。

「紙で指? あるけど、なんでそんなこと聞くんだよ」

「あれって前触れもなく切れるじゃん。そんな感じだったんだよ。秋吉(あきよし)先輩に別れてって言われたの」

先輩はふたつ上の高校三年生。カッコよくて優しくて、女子からきゃーきゃー言われてる人。

私もその中のひとりで、勝手に恋に落ちた。

それで連絡先を交換してもらって望みは薄いだろうと思っていたけれど、振り向いてもらえるように頑張った。

先輩が甘いものが食べたいと言えばお菓子を作って。

眠くないと言ったら、眠くなるまで電話して。

ちょっと出て来れない?と誘われたら、夜中でも会いに行った。

親にいい加減にしなさいと叱られても、私は先輩との時間のほうが大切だった。

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