誤解から楠木課長にプロポーズされた一時間後。
彼は予告通り身支度を調え、私の部屋のチャイムを鳴らした。

「準備はできたか?」

「あー、えと。
はい」

ぴったりフィットのVネックカットソーにスリムジーンズを穿き、ラフに濃紺のスウェットジャケットを羽織る課長は、まるでモデルのようだ。
その一方で私はといえば、カーゴパンツにゆるだぼなパーカーだったりする。

「どうする?
近場のカフェでもいいが、僕はまだ天神(てんじん)とか行ったことがないんだよな」

けれど課長は私の格好に眉ひとつ動かすことなく、携帯で候補の店舗を検索しはじめた。

「……とりあえず話をするだけなら、近場のカフェでもいいんじゃないですかね?」

天神なんて疲れるところは極力、行きたくない。
それでなくても普段、仕事以外で東区(ひがしく)から出ない生活をしているだけに。

「まあ、それもそうだな。
この辺も開拓したいし」

「じゃ、じゃあ」

履き古したスニーカーを履き、部屋を出る。
千早駅でJRの改札へ向かおうとする課長を止めた。

西鉄(にしてつ)の方が安いので」

「西鉄?」