7歳の侯爵夫人
ヒース侯爵邸が見えて来て、馬車が邸の門の前で停車した。
普通なら門を開けさせそのまま邸内に入るのに、馬車は停車したままだ。
訝しく思った俺は、窓から顔を出して
「どうした?」
と御者にたずねた。
「旦那様、それが…」

その時、
「オレリアン!」
と叫ぶ女性の声が聞こえた。
呼ばれた方を向くと、馬車の窓の下へ、女性が走り寄ってくる。

…セリーヌだった。
セリーヌは窓の側まで来て、
「オレリアン!待ってたわ!」
と俺の方へ両手を伸ばした。

なんということだろう。
何故、別れたはずの元恋人が俺に駆け寄ってくるのだろう。
しかもこの、今のタイミングで。

万が一セリーヌが俺をたずねて来ても、マテオは門前払いするはずだ。
だから彼女は、門の前で俺を待っていたとでも言うのだろうか。

俺はコンスタンスを振り返った。
彼女は今までになく無表情に俺を見ている。

「どうして⁈どうして何度手紙を出しても返事をくれないの⁈」
窓の下でセリーヌが喚いているが、ここは往来もあり、放置するわけにもいかない。
俺は馬車を降り、セリーヌに向き直った。
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