7歳の侯爵夫人

8

ある日いつものようにオレリアンがコンスタンスを連れて領内を回っていると、数人で立ち話をしている領民たちの会話が聞こえてきた。

「もうすぐ王太子様の成婚式だな」
「ああ。王都では盛大なご成婚パレードがあるらしいぞ」
「隣国の王女様はさぞかしお綺麗なんだろうな。お互い一目惚れって話だろ?」
「いや。向こうの王女様が一目惚れして強引に結婚をねじ込んだって話だぞ?」
「ああ、こっちの王太子様は婚約してたもんな。たしかうちの領主様の奥様と…」
「あー…、おまえ、それは言いっこ無しだよ」
「まぁ、どっちにしろ良かったよな。隣国は大国だから、縁戚になれてさ」
「ハハハッ、そうだよなぁ…って!……おいっ!」

オレリアンたちに気付いた領民の1人が隣の男の袖を引っ張った。

「なんだよ、急に……って!わぁ!!」
「うわっ!領主様!!」
「すいません!領主様!」

慌てて謝る領民たちに、オレリアンは軽く右手を挙げ、苦笑した。
少し気まずげにコンスタンスの方を伺うが、彼女も怒るでもなく驚くでもなくニッコリ笑っている。
もうこんな噂話は耳にタコが出来るくらい聞いているからだ。

「私もそう思うわ。おかげでこんな素敵な旦那様と結婚出来たんだもの」
コンスタンスは茶目っ気たっぷりにそう言うと、夫にそっと寄り添った。
「ああ。俺もだよ」
オレリアンは目を細め、妻の肩を抱き寄せる。
領民たちは「ハハハ…」と笑うしかなかった。

もうすぐ王太子が隣国の王女と結婚することは、この国の民なら皆知っていることである。
王都から離れたこんな田舎の領地でも。
当然コンスタンスに隠しおおせるわけもなく、それはとうに彼女の耳にも入っている。
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