7歳の侯爵夫人
フィリップが隣国に表敬訪問したのは、ちょうどその頃のことである。
そして、国王に溺愛されているというソニア王女と出会った。

大国の王女として生まれ蝶よ花よと育てられたソニアは、少々我儘で、気が強そうな少女だった。
だが、隣国の王子に好奇心満載のキラキラとした瞳を向けるソニアに、フィリップは幼い頃のコンスタンスを重ねた。

だから、少しだけ、惹かれた。
でも、ただそれだけだ。
帰国して1年後には、長年想い合い、慈しみ合ってきた婚約者と結婚する。
この訪問中だけ、魅力的な王女と楽しく語り合い、微笑み合うだけ。

そう、それだけだったのに。
表敬訪問から帰国して僅か1週間後。
隣国から、ソニア王女とフィリップ王太子の縁談が持ち込まれた。
きっかけはソニア王女の一目惚れという話だったが、王女はともかく、隣国の国王やその周りの者がフィリップ王太子の婚約を知らなかったはずはない。
それでもゴリ押ししてきたのは、本気で我が国と縁を結びたかったのだろうし、フィリップ王太子の将来性を見込んでのことだろう。

当然我が国でも隣国と縁を結ぶのが得策との意見が大多数で、結局フィリップはソニア王女と婚約することが決定した。
そこに、フィリップの意思など全く存在しなかった。

もちろん自分にはすでに婚約者がいると、彼女と別れるつもりはないと、抗おうとはした。
だが、いくら王太子とはいえ、所詮は国の駒だ。
国の決定に逆らうことも、国民の期待を裏切ることも出来なかったのである。
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