7歳の侯爵夫人

8

「かえ…った…?ちゃんとお引止めしたのよね?」

コンスタンスに尋ねられた門番は、緊張した面持ちで大きく頷いた。
「はい、はっきりとお伝え致しました。しかし侯爵様は『ご遠慮申し上げる』とおっしゃられて…」
「…そう…。帰ってしまったの…」

コンスタンスはそう呟くと、視線を下に落とした。
花が届かなくなって一週間。
だがオレリアンは毎日遠回りして、ルーデル公爵邸の前を通って帰宅していた。
だからそこで引止めてコンスタンスが会いたがっていると門番に告げさせたのに、オレリアンは寄らずに帰ってしまったと言う。

(謝りたかったのに…)
漸く周りが見え始めたコンスタンスは、ここ2ヶ月余りの自分の言動があまりにも酷いものに思えた。
だからせめて、今までお礼の言葉をかけなかったことだけでも謝罪したいと思ったのだが。

(明日も声をかけてもらおう)
そう思ったのだが、翌日からオレリアンは公爵邸前を通ることさえやめてしまった。
仕事を終えると、真っ直ぐヒース侯爵邸に帰るようになったのである。

(まぁ、それはそうよね…)
コンスタンスは誰に言うでもなく、独り言ちた。
2ヶ月もの間花を贈り続けた夫の存在を無視していたのに、花が届かなくなった途端に思い出したように『会いたい』だなんて、我ながら虫が良すぎると思う。
見限られても仕方がない。
リアは、オレリアンはそんな人間ではないと言うが、それではあまりにも人が良すぎるだろう。

思えば、婚約解消になった令嬢などキズモノ同然なのに、それをヒース侯爵はもらってくれたのだ。
王命で嫁を充てがわれたなんて、なんて気の毒な方なのだろう。
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