7歳の侯爵夫人
一方コンスタンスもこの時間を心の底から楽しく思った。
こんな風に大きな声で笑うのは子供の頃以来だったから。

「私たちは、以前もこうして遊んでいましたの?」
「ええ。貴女はいつも、裸足で庭を駆け回っていましたよ」
「まぁ、私が裸足で?」
「しょっちゅう足に切り傷を作るものだから、私はいつもこうして塗り薬を常備していました」
そう言うと、オレリアンは懐から小さな薬入れを取り出した。
「まぁ…」

自分が裸足で庭を駆け回っていたなんて俄かには信じられない話だが、彼が言うなら本当なのだろう。
(侯爵様に手当てしていただいていたのかしら…?)
そう思ったら何やら恥ずかしく、コンスタンスは両手を頬に当てた。

その時、オレリアンに足を差し出す自分の姿が微かに頭に浮かんで、コンスタンスは頭を押さえた。
何か映像が頭に流れてきて思い出せそうな気がするのに、それ以上はぼやけてしまってよく見えない。

「…ん…っ」
「コンスタンス嬢⁈頭が痛いのですか?」
「いえ…、大丈夫です…」
一瞬目眩がしたが、頭はあまり痛くない。

「無理をしないで。今日はもう戻りましょう」
「でも…」

コンスタンスはせっかく楽しく過ごしていた時間を終わらせてしまうことを残念に思った。
しかしオレリアンは頭を押さえたコンスタンスのことが心配で仕方がない。
支えてやりたいが不用意に彼女に触れて良いのかわからず、差し出そうとした手を彷徨わせる。

そんな彼を見て、コンスタンスはいっそう眉をひそめた。
「侯爵様…、お願いですから、私がこうして頭痛を起こしそうになっても、もう近寄らなくなるようなことはしないでくださいませ」
懇願するようなコンスタンスの目に、オレリアンは覚悟を決めるように頷く。

「わかりました」
オレリアンは突然コンスタンスの背中と膝裏に腕を回すと、彼女を抱き上げた。

「侯爵様…っ⁈」
「いいから。もう黙ってください」
オレリアンはコンスタンスを抱いたまま、スタスタと邸の方へ向かった。

「あ、あの…!」
戸惑うような声を上げても、オレリアンは前を向いたままで、彼女の体を放そうとしない。

コンスタンスはそっと、オレリアンの胸に頭を預けた。
目を閉じると、彼の体温と、胸の鼓動が伝わってくる。
あたたかいその胸の中を、コンスタンスはたしかに知っていると思った。
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