7歳の侯爵夫人
「どうした?」
再び妻の右手を両手で包みこみ、優しくたずねる。
コンスタンスはそんな夫を見上げ、意を決したように口を開いた。

「私…、全部、思い出したんです」
「…全部?」
「フィリップ殿下と婚約を解消したことも、オレリアン様と結婚したことも、結婚してすぐ、ヒース領に行っていたことも」
「そう…、か…」

オレリアンは目を見開き、言葉を失った。
とうとう、コンスタンスは全て思い出してしまった。
こんなに、突然に。
結婚以来オレリアンが彼女にしてきた冷たい仕打ちも、全て思い出してしまったのだ。

「私は…、あの日、あの場所で、事故に遭ったんですね。そしてあれから、記憶を失っていた…」
「コニー、すまない、それは…」
全て、自分のせいだ。
そうオレリアンは言おうとした。

だが、コンスタンスは寂しそうに小さく笑った。
そして、呟いた。

「私、思い出したんです。あの事故に遭う前、私は、貴方に離縁を申し出ていたんですね」
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