7歳の侯爵夫人

2

私がヒース侯爵オレリアン様と初めてお会いしたのは、婚約が整う2ヶ月程前でした。
所謂お見合いみたいなものでしたが、この縁談は王室から持ち込まれた時点で決定しているも同然です。
王妃様は私が縁談を受け入れることが、国のため、殿下のため、そして実家のためだとおっしゃいましたから。

いえ、オレリアン様と初めて会うと言うのにも語弊があります。
オレリアン様は近衛騎士団に所属されていたので、それまでにも目にする機会はございましたから。

いえ…、やっぱり、本当のことを話してしまいましょう。
実は私は、オレリアン様の近衛騎士以外の素顔も、目撃したことがありました。

あれは、私が16歳になったばかりの頃でした。
私は刺繍をすることが趣味で、息抜きでもあります。
忙しいお妃教育の合間を縫っては、家族や侍女に何か作ってあげたり、布や糸を買いに街に出たりしていました。

その日は、侍女のリアと女性の護衛騎士を連れて、お忍びで糸を買いに出かけていました。
来た時は晴れていたのですが、店内をゆっくり見ている間に雨が降って来てしまい、私たちは店主のご好意でしばらく雨宿りをさせていただいていました。
ふと窓の外を見ると、馬車が脱輪して立ち往生しております。
誰か助けを…、と思いましたが、今日私たちは女性のみで来ております。

するとそこへ、馬に乗った騎士姿の青年が通りかかり、雨の中、馬車を持ち上げる手伝いをし始めました。
青年は顔や服を泥だらけにしながら一生懸命馬車を押しています。
なんて親切な方なのでしょうか。
私が感心して見ておりますと、馬車から若い女性が降りて来て、青年に何度もお礼を言っておりました。
青年も照れたように笑っております。
その笑顔は、とても美しい笑顔で、女性も見惚れていらっしゃるようでした。
なんというか、私はそこに、恋が生まれる音を聞いたような気がいたしました。
< 304 / 342 >

この作品をシェア

pagetop