7歳の侯爵夫人
カフェの窓から外を眺めていたコンスタンスが、突然小さく笑った。
「ん?どうした?」
オレリアンもつられて外を見る。

「そういえば私ね、昔、ここで立ち往生している馬車を助けている男性を見かけたの」
「ふうん?」
「雨で濡れるのも構わず手を貸して…、すごく好青年だったわ。しかも、馬車に乗っていたのはとても綺麗な女性だったの。彼女は青年にお礼を言って…、彼はすごく照れていて…、2人、見つめ合っていたわ」
「へぇ…、って、え?」
オレリアンは眉間に皺を寄せてコンスタンスの顔を見た。
彼女は夫に向かってニッコリ微笑んでいる。

「あの時私ね、恋に落ちる音を聞いた気がしたの」
「それは…、多分気のせいだな」
オレリアンは明後日の方を向いた。

「俺だって…、舞踏会ではいつも仲睦まじい様子の王太子と婚約者を見てたけど?」
オレリアンがつまらなそうに言い返すのを、コンスタンスは笑顔で聞いている。

オレリアンにとっても、コンスタンスにとっても、たしかにあれは恋だった。
でも、あの恋が実らなかったからこそ、今の幸せがあるのだと思える。
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