7歳の侯爵夫人

3

「また公爵邸へ行くの?」

オレリアンが自邸を出ようとしているところへ声をかけてきたのは、義母でもある、前伯爵夫人のカレンだ。

オレリアンが伯父である伯爵の養子に入る数年前、伯父は貧しい男爵家から若い後妻を迎えていた。
それがカレンであり、義母ではあるが、オレリアンとは6歳しか違わない。

「公爵様から離縁を勧められているのでしょう?持参金を返さなくていいとおっしゃっているのだもの。早く離縁して貴方もスッキリしたらいいのに」
そう言ってカレンはオレリアンの腕に自分の腕を絡めた。
どこで聞きつけたのか知らないが、金の話になると耳聡いカレンに、オレリアンは眉を顰める。

「そういうわけにはいきません。この結婚は王命ですし、縁あって夫婦になったのですから」
オレリアンは腕を引き抜こうとするが、カレンはさらに体を押し付けんばかりに腕を絡めてきた。

「貴方は真面目ね。ま、そういうところも良いのだけれど」
カレンが意味ありげに見上げてくるのを、オレリアンはスッと視線を避ける。

オレリアンはこの義母が苦手だ。
この、ねっとりと纏わりつくような視線も。
鼻をつくような香水の香りも。

伯父はお人好しだったから、彼女の本質を知らず、この妖艶な容姿に惹かれて後妻に迎えたのだろう。

オレリアンはこの女がどんな女か、少なくとも死んだ伯父よりは知っている。
オレリアンが愛した唯一の女性を失ったのは、カレンのせいでもあるだから。
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