7歳の侯爵夫人

2

数分前ー。

妻の様子を見ようと彼女の寝室の前に立ったヒース侯爵オレリアンは、扉の前で躊躇(ためら)っていた。

彼の妻コンスタンスは事故で頭に怪我を負い、三日間眠り続けている。
目を覚まさない妻が心配でこうしてちょくちょく部屋を訪れているのだが、いざ本当に彼女が目覚めたら、こうして近づくのも、いや、顔を見せるのも嫌がられるかもしれない。
今回コンスタンスがこんな目に遭っているのは、全てオレリアンのせいであるのだから。

(もしコンスタンスが目覚めたら、誠心誠意謝罪して、最初からやり直したいと乞おう。それでも彼女が否と言うなら…、私は…)

オレリアンはため息をつくとなんとか気持ちを整え、扉をノックしようと右手を挙げた。
すると、部屋の中から侍女の声が漏れ聞こえてくる。
そのまま中の様子をうかがっていると、耳が『奥様』という単語を拾う。

(コンスタンスが目覚めたのか⁈)
オレリアンは思い切り扉を開け、部屋に足を踏み入れた。

見れば、眠り続けていた妻コンスタンスがベッドの上に上半身を起こし、侍女リアが気遣うように寄り添っている。

「コンスタンス!」
オレリアンは妻に走り寄った。
その瞬間は、これからの混乱など頭から吹き飛んでいた。

妻が無事に目を覚ました。
その喜びに、走り寄っていたのだ。
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