7歳の侯爵夫人

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コンスタンスの19歳の誕生日が近づき、俺は彼女に誕生日プレゼントを贈ることにした。
いくら気持ちが通じ合わず音信不通の妻とはいえ、書類上は紛れもなく妻なのだから。

当たり障りのないものを、と思い、俺は彼女の瞳の色に似たエメラルドのネックレスを贈った。
だが、彼女からは礼状のひとつも届かなかった。
どうやらお気に召さなかったらしい…、と、俺はそう思うことにした。
俺にしたって、誕生日プレゼントなんて社交辞令のようなものだった。
まぁ、宝飾店に赴き、自ら選ぶくらいはしたのだが。

ジェドとマテオからは仕事の記述以外に時々『奥様はお健やかにお過ごしです』などの文言があった。
だから俺は、彼女が領地の暮らしにそれなりに馴染んでいるようで、ある程度安心していた。

しかし、いつ頃からだっただろうか…、2人からの報告に、だんだんと違和感を感じることが多くなった。
明らかに、コンスタンスから俺に連絡を取っているようなニュアンスの記述があるのだ。

『奥様からもお知らせしたと思いますが、今年は麦が豊作で…』
とか、
『奥様がお贈りになった皮の手袋はお使いになってますでしょうか?』
とか、
『奥様がお願いされた本はなかなか手に入らないのでしょうか?』
とか…。

最初は何かの間違いか、マテオたちの勘違いかと思って放置していた。
問いただせば、かえってコンスタンスが夫に手紙の一通も、プレゼントの礼状も出さない冷たい女だと披露するようなものだと思ったのである。
だから特に調べもせず、ダレルに調べさせることもしなかった。

だが、それも俺の鈍感で独善的な性格が招いた間違いだった。
とうとうマテオが怒って領地から王都に出てきたのだ。

「私クビを覚悟で旦那様をお諌めに参りました!」
と息巻きながら。
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