異世界で先生になりました~ちびっこに癒されているので聖女待遇なんて必要ありませんっ!~

魔術師団団長の祈り

いよいよ、始まる。

漸くカイン陛下からの許可が下りて、この儀式の準備が行われたのは、一ヶ月前。

異世界から人を喚ぶのは、並大抵の魔力では到底行えない。

当然のように、国一番の魔力量を誇る私が召喚士として選ばれた。

国を守りたいという重鎮たちの思いも、異世界から聖女を喚ぶことを軽く考えたくない陛下の気持ちも、どちらも正しい。

ましてや、喚ぶことは出来ても、還すことは出来ない。

一人の人間の人生を、我々の都合で、我儘で、変えてしまうのだ。

まだ見ぬ聖女となる方を、私達は大切に慈しまなくてはいけない。

罪の意識を、忘れてはいけない。

…赦されたいと、思ってはいけない。

陛下は、その肩に更なる重みを加えようとしている。

彼一人に、それを課してはいけない。

聖女召喚を願った時点で、我々も同罪なのだから。




さあ、始めよう。

周囲の魔術師団員に合図を送る。

複雑に描かれた魔方陣の中央に立ち、まるで唄うように呪文を唱えていく。

魔力を流しながら、聖女の気配を探す。

ーーーああ、見つけた。

燃えるような、強い光。

包み込むような、温かい光。

そして、澄みきった清らかな光。

そうか、貴女達が…

三つの光を、迷わないように慎重に運ぶ。

…しかし、一つ目を喚んだところで思っていた以上の魔力の枯渇を感じた。

まずい。

額から汗が流れたが、気になどしていられない。

どうにかして二つ目を喚び寄せると、意識が飛びそうになった。

急がなければ。

この光を失うわけには…!





覚えているのは、そこまで。

「せいじょは、さんにん、います」

どうか、見つけて。

そう最後に呟いた言葉が、誰かの耳に届いたことを祈り、私は虚脱感に抗えず目を閉じた。
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