その日、私は雄飛の前から姿を消した。

手切れ金の500万円は生活のために受け取って。妊娠が分かったのはそのひと月後のこと。
 
  

 
「おねえさん。注文いいですか?」

「あ、はい。お決まりですか」

 私は声のボリュームを絞る。

幸い三田さんは私のことなど見ようともしていないし、雄飛はずっとスマホを見ている。

料理の配膳は彼女にお願いすればこの場は切り抜けられるはずだ。できるだけ早く料理を提供して帰ってもらえたらそれでいい。私は必死で手を動かした。

 雄飛一行が席を立ったのはそれから二時間後の事だった。

結局雄飛は私に気付くことはなかった。

当然だろう。あれからもう四年。彼は代わった。私と別れてからの雄飛は女優とのスキャンダルで週刊誌をにぎわせるような恋多き男としても有名になってしまった。

 あの頃の雄飛はもうどこにもいない。けれど、彼を愛する私の気持ちは永遠に変わらない。だから朝飛を産んだ。

妊娠が分かった時、不思議と不安はなかった。生きる希望が見つかった気さえした。

夜明けとともに生まれてきた小さな命は、雄飛にとてもよく似ていた。