その日、朝飛が眠った後。
私たちはリビングのソファーに並んで座り、明日からの生活をどうするのか話し合った。
「とにかく婚姻届けは早めに出そうな」
「そうしよう。でも朝飛は養子縁組の届けが必要になるんだよね?」
以前なにかでそんなことを見聞きした覚えがあった。雄飛と朝飛には血縁関係があるけれど、手続き上は養子縁組が必要になる。
「ああ、そうか。それも含めて知り合いの弁護士に相談するよ。なにも心配しないで早くその怪我を治すことに専念しろよ」
そう言って雄飛は私の右腕をやさしくなでてくれた。
「まだ痛んだりする?」
「ううん、動かさなければ平気」
もしこんな状態で朝飛と二人きりだったら、不安に押しつぶされてしまったかもしれない。でも雄飛がそばにいてくれて、とても心強い。
「ありがとうね、雄飛。いろいろ考えてくれて」
「当然さ。まひるには今まで苦労を掛けた分、楽をさせてあげたいんだ。朝飛にもいろんな経験をさせてやりたい。習い事もいいな、考えといて」
「うん」
「オフには三人で出かけたりしような」
「そうだね。離れていて三年分の思いでも、これから作っていけたらいいね」
「そうだな。離れていた分まひるの事、たくさん愛したい」
雄飛が私を見つめる目はとてもやさしかった。
以前はもっと雄々しい情熱が秘められていたと思ったけれど。おそらくそれは、私たちがただ求めあうだけの関係からは支え合う関係へ変わったからかなのかもしれない。
「まひる」
雄飛の均整の取れた顔がゆっくりと近づいてくる。
「ま、待って雄飛」
私はとっさに顔を背けた。
「まひる?」
「こういうの久しぶりで……」
雄飛と別れてから男性と関わることがなかった。というよりは、雄飛以外とは男女の関係にはなりたくなかったから。だからまるで初めての時みたいに恥ずかしくてたまらない。
「俺だってそうだよ」
「うそだぁ」
雄飛のことを女性が放っておくはずがない。熱愛報道だって一度や二度じゃなかったはずだ。
「お前な、嘘ついてどうするんだよ。寝る時間もないくらい仕事してるんだぜ? 女と遊ぶ暇なんてなかったよ」
「そう、なんだ」
「そうなの。それに、まひるとしかこういうことしたくないし俺」
雄飛の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。本音で言ってくれているのだと分かって、嬉しかった。
だから私も雄飛に気持ちを伝えた。
「私も同じだよ。雄飛がいい。雄飛じゃないといや」
この気持ちは出会った時からずっと変わらない。
雄飛は嬉しそうに微笑んで、私の背中に手を回す。引き寄せて抱きしめると「好きだ」とささやいてキスをした。
台本のないラブシーン。終わりのない二人だけのドラマの幕開け。