5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
魔獣との出会い
 マレユスさんの魔法指導を受け始めて、一ヶ月ほどの時が経った。
 私の魔法の腕はかなり上達し、今ではモンスターを倒せるほどまでになった。そのおかげで、ランクはDランクに。ちなみにマレユスさんはBランクだった。でも、これはマスターにこっそり聞いた話だが、マレユスさんは実力的に言うとAランクらしい。本人があまり高ランクだと目立つ可能性があることを懸念して、Bランクで留めているそうだ。そんなことできるんだ……と思ったけど、ランクを下に名乗ることに関してはそこまで厳しい規制はないみたい。上を名乗ったり、あまりにも下を名乗るのはいけないようだ。
 それと、Aランクの上にはさらにSランクというものがある。このランクになるには、試験を受けなければならないみたい。近いうちフレディが受けるかもしれないので、どんな試験なのか楽しみにしていようっと!
「フレディ、メイちゃん。ひとつ引き受けてほしい依頼があるんだが」
 フレディと一緒にギルドの受付へ行くと、マスターが直々に私たちに頼みごとをしてきた。
「どんな依頼だ?」
「それが、最近北の洞窟で魔獣が暴れているようでな」
「魔獣!?」
 この世界で新たに聞く言葉に、私は興味深々で食いついた。魔獣なんて、いかにもファンタジー世界という感じで、なんだかわくわくする。
「メイ、目を輝かせてるとこ悪いけど、魔獣はかわいい存在じゃないぞ?」
「えぇ……そうなんだ。あ、マスター、話を遮ってごめんなさい! 続けてください」
 私が言うと、マスターが今回の依頼内容についてくわしく話し始めた。
 洞窟で暴れている魔獣はその昔、人間たちとお互い傷つけあわない、干渉しないという約束を交わし、何十年も静かに洞窟で暮らしていたようだ。魔獣が棲みついているので、北の洞窟に人間はなるべく近寄らないよう気を付けていた。
それなのにも関わらず、今になって急に魔獣が暴れ出した。しかもその影響でか、今まで発生していなかったモンスターが洞窟内に発生するようになり、困っているらしい。
「何人かの冒険者が洞窟にモンスター退治に向かったんだが、数が多くて断念するものばかりでな。肝心の魔獣のところまで辿り着けるものがいないんだ。危険を感じたらすぐに引き返してかまわん。どうか引き受けてくれないか? もうほかに、頼めるやつらがいなくてなぁ」
 マスターの表情や話し方を見るに、かなり深刻な状況のようだ。そんなマスターの姿を見て、私とフレディは顔を見合わせ頷き合う。
「わかった。その依頼、俺たちが引き受ける。モンスターや魔獣が洞窟から出てきたりでもしたら、たまったもんじゃないしな。早めに対処しておいたほうがいい。……それに、魔獣が暴れた原因も気になるところだな」
「助かるよ。もしこの件が解決できた場合は、こちらもそれ相応の報酬を払わせてもらう」
 おっ! これはかなり報酬に期待できそうだ。絶対に依頼をこなさなければ。マスターから報酬の話を聞き、私はやる気に満ち溢れた。
「ああ。ありがとう。俺とメイに任せてくれ」
「ふたりはこれまでいろんな依頼をこなしてくれたし、フレディの剣術とメイちゃんの聖女の力があれば大丈夫だとは思うんだが……。もしほかに誰か頼りになるやつがいたら、一緒に連れて行っても全然いいからな。人数が多いにこしたことはない」
 マスターがここまで念を押すということは、今回の依頼は今までとはひと味もふた味もちがう予感がする。なめてかかると、返り討ちに遭いそうだ。
「あっ! だったら私、ぜひ一緒に連れて行きたい人がいる!」
 〝頼りになる人〟と聞いて、頭にすぐに思い浮かんだ人物がひとりいた。
「……なんか嫌な予感がしてきた」
 フレディは私の反応を見てなにかを察したのか、隣でぼそっと呟いた。

「メイの頼みなら仕方ないですね。僕も同行します」
「やったー! ありがとうマレユスさん! マレユスさんの魔法があれば心強いです」
 やっぱり、頼りになるといえば師匠しかいないでしょう!
 私は北の洞窟へ向かう前にフレディを説得し、マレユスさんに〝今回の依頼に同行してほしい〟と頼みに行った。マレユスさんはふたつ返事で、快くオーケーしてくれた。
 喜ぶ私の頭を撫でながら、マレユスさんはなぜかフレディを見て鼻で笑う。
「今の聞きました? つまり、あなたの剣術だけじゃ頼りないってことですよ」
「メイはそんなこと言ってないだろ! メイ、本当にこいつは必要なのか?」
「必要ないのはどちらかというとあなたでは?」
「なんだと!?」
 無意味な言い争いがヒートアップしそうな気配を感じ、私はふたりの間に割って入り叫んだ。
「もうっ! けんかしないで! ふたりとも私には必要ですっ!」
 相変わらず、このふたりは馬が合わないようで、顔を合わせばいつも口げんかをしている。大体、マレユスさんがけんかをふっかけているように思えるが、フレディもいちいち相手にしなければいいのに。 
 頬をぷくーっと膨らませふたりを見上げると、フレディがおろおろしながら私の髪を優しく撫でた。
「メイ、悪かった。そうだな。けんかはよくないな」
「うん。三人で協力しないと、モンスターも魔獣も倒せないよ。マレユスさんもわかった?」
 フレディとちがいつーんとした態度を貫くマレユスさんに再度注意すると、マレユスさんは気まずそうに、トレードマークといえる帽子を深くかぶりなおして言う。
「……わかりました。フレディとは、一時休戦ってことで」
 一時といわず、ずっと休戦してくれたらありがたいのだが。
 なにがふたりの関係を悪化させているのか、私にはわからず謎のままだった。いつか仲良くなってくれる日がきたらいいなぁ。
 そんなこんなで、私たちは準備を済ませ、三人で魔獣の待つ北の洞窟へと向かった。
 洞窟の中は暗くて寒い。ひんやりとした冷たい空気が、全身を包み込んだ。
「これじゃあ道が見えづらいですね。ちょっと待っててください」
 そう言って、マレユスさんは光魔法を発動した。するとマレユスさんの手から、光の玉が浮かび上がった。光の玉は懐中電灯のような役割を果たし、暗い洞窟の道を照らしてくれた。
「わぁ。これだと先へ進みやすいですねっ!」
「よくやったマレユス。……この辺りはとくにモンスターのいる気配はないな。とりあえず、奥に進んでみよう」
 周りに注意を払いながら、フレディを先頭に私たちは歩みを進める。
 しばらく歩き続けると、開けた場所へとたどり着いた。そこだけ洞窟内が少し明るく、光の玉がなくとも周囲が見えるようになったので、マレユスさんは魔法を解除した。しかし、今度は濃い霧が私たちを行く手を阻む。警戒しながら霧の中を進んでいくと、大きな影と、そこに群がる何人かの人影が見えた。あれって――。
「……グレッグ?」
 前に進むにつれて、霧が薄くなってきた。良好になった視界が捉えたのは、グレッグとチャドとコーリーの姿だった。
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