彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
本当の事

 そのまま柊にエスコートされてやって来たのは、港の中でとってもオシャレなレストラン風のカフェ。
 オープンカフェのようになっていて、外の席もあり若いカップルがお茶を飲みながら楽しそうに話している姿が見える。

 
 
 柊と樹里は、カフェ内の窓際の席に座った。

 メニューを見てみると、オシャレなメニューが多くて樹里は戸惑っていた。

「俺のおすすめがあるのですが、それを注文してもいいでしょうか? 」
「は、はい…」

 ちょっと恥ずかしそうに樹里は返事をした。

 ずっと外食をした事がなかった樹里。
 小さな頃から外出もあまりしないままで、外食に行ったのは父親の優が仕事関係で御呼ばれした時くらいだった。
 
 殆ど家で一人で食事をしていた樹里は、外食をする事はなく、社会人になってからカフェで一人の時間を楽しむことがあっても食事はコンビニで買って休憩室で食べているか、外の公園でのんびり食べるくらいしかなかった。

 ドリンクのメニューは分かっても、食事のメニューはあまり判りずらい…。

 周りを見ると若いカップルばかりで、なんとなく自分は浮いているのではないかと樹里は恥ずかしさを感じていた。


 窓の外には奇麗な星空が見え、港に泊まっている船はライトが綺麗に輝いている。


 特に会話がないまま、注文したものが出てくるのを待っている樹里は、どうしていいのか分からない顔をしていた。

「ここは、俺のお気に入りの場所です。ここに、女性を連れて来たのは初めてなのです」

 初めて?
 だって、結婚しようとしていた人がいたのでしょう?

 チラッと柊を見た樹里。

 柊はじっと樹里を見つめていた。
 その目はとても優しく、どこか樹里を心配しているような目をしていた。

 どうしてどんな目をして私を見ているの?
 不慣れな私を見て、心で笑っているの?

 そう思った樹里だが。

「あの…。樹里さんは、こうゆう場所苦手でしたか? 」
「あ…いえ…そうではありませんが、外食は慣れていませんので」

「そうだったのですか。ごめんなさい、知らなくて…。でも、これに懲りないでまた一緒に来てくれますか? 俺、樹里さんと一緒に沢山楽しみたい事があります」
「はぁ…」

 楽しむって何を?
 別にそんなこと望んでは…。

 樹里は視線を落としてムッとしていた。
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