彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
大紀現る


 夕暮れ時のオフィス街。

 今日の打ち合わせが終わり、柊は帰宅する為に自社ビルから出てきて歩いていた。

 すると…。

 スーッと黒い影が伸びてきて、柊はふと立ち止まった。


 立ち止まった柊の目の先には、人を見下したような目をしているチャラそうな金髪の長めのショートヘヤーにほっそりとした輪郭に、ちょっと堀の深そうな目鼻立ちをしている長身のスラっとした男性が立っていた。
 服装は派手なパープル系のシャツに黒いズボンに厚底の茶系の靴。
 耳にはピアスを数個つけてジャラジャラした格好をしている。

 ポケットに片手を突っ込んで、見下し目で柊を見ている姿はいきがった子供のようにも見える。


「あんた、宗田さん? 」

 誰なんだろう? 
 どこかで感じた様な気がするけど…。

 そんな思いで柊はじっと男性を見ていた。

「俺、樹里の兄貴。名前は大紀」
「樹里さんのお兄さん。初めまして、宗田柊です」

 名前を名乗ると、大紀はフン! と鼻で笑った。

 樹里の兄と名乗るわりには似ていない…。
 タイプも全く違う。
 でも、大紀の向こうには確かに優を感じる…。

「直接会うのは初めてだな。俺は、樹里の結婚に興味なんかないし。お前に会う気なんてなかったけど、どうしても用があってさぁ」

 見下した目のまま近づいてくる大紀を、柊はじっと見ていた。

「悪いんだけどさぁ、金用意してくれない? 」
「お金ですか? 」

「ああ、とりあえず100万でいい。生活するのに困ってんだよ。親父が家に入れてくれないし、通帳もカードも全部取り上げられてんの」
「そうでしたか。ですが、申し訳ございませんが。ご存知の通り、俺は樹里さんに助けられた方なので自由に動かせるお金はあいにく持ち合わせていないのです」

 チッと舌打ちをした大紀は、くッと柊を見てグイッと襟首をつかんだ。
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