意味不明な白極(はくごく)さんの言葉に、私は目の前のお冷を飲み干すと伝票を手にして黙ったまま席を立つ。これ以上、彼とまともな会話をするのは不可能だと判断したからだ。
 あの長谷山(はせやま)先輩が紹介してくれたのに、普通の勤め先だなんて思ったのが間違いだった。まさかその経営者がこんな変人だったなんて予想もしなかったから。
 深く関わらないうちに、さっさと退散しよう。そのためなら彼の飲み物代ぐらいは自分が払ってもいい。

「先輩には後で思い切り文句言ってやるんだから」
 
 そうぶつくさ言いながらレジの女性に伝票を出そうとすると、後ろからやや乱暴に手首を掴まれる。

「……良い度胸してんな、お前」

 白極さんはレジの女性にお札を渡すと、私の手首を掴んだままズンズンと歩き出す。背の高い白極さんに速足で歩かれると、こちらは自然と小走りになる。新しく買った安物のパンプスが合わなかったのか、踵が擦れて痛いのに……

「白極さん、あの……ひゃあっ!」

 この話は無かった事に、そういうつもりだったのよ?だけどいきなり白極さんの肩に担がれ、思わず変な声が出てしまって。

「わ、私は米俵じゃありません!」

「馬鹿言え、米俵の方がお前よりずっと大人しくて軽い」

 私はそこまで重くないわよ!レディに対して何の遠慮も無い失礼な男の肩の上で、今すぐ降ろせと言わんばかりにジタバタともがく。