「古いし狭すぎる! 物置か、ここは?」

 手伝ってやるからさっさと荷造りをしろ、と言われて「まあ、いいか」なんて思って連れて来たのが間違いだった。私が部屋の扉を開いた途端、白極(はくごく)さんは中を覗き込んでそう言ったのだ。
 そりゃあ白極さんみたいにマンションの最上階に住んでる人から見れば、この部屋は狭いし古いでしょうよ。それでも社会人になって自分で借りた大切な居場所だった。
 
「無理なら帰ってもらって結構ですよ、ここにある荷物くらい自分で何とか出来ますし」

 もともと物はあまり持たない性格だったし、リストラされてからお金になりそうなものは全て売り払ってしまった。ここにあるのは最低限の家具と衣料品程度だから。
 そう言って片付けを始めた私を、白極さんは疑わしそうな目で見ている。

「……なんですか? 言いたいことがあるのなら言ってくれないと」

 言わなきゃいけない事は話さず、言わなくていい事ばかりを喋る白極さん。何か言いたそうな眼だけをこちらに向けている。
 なんなのよ、もう。

「……そう言って、俺が帰った後に逃げるつもりじゃないだろうな?」

「……はい?」

 白極さんの言っている意味が分からない、そう思って聞き返してみる。

「ここには何もない。さっさと片付けて、こんな部屋から逃げ出すのは簡単だろう」

 私にはここしか居場所がないのに、ここ以外にどこに逃げろと言うのか?白極さんにとってこんな部屋だったとしても、私にとっては思い出の詰まった特別な場所なのに。
 彼の無神経で決めつけた様な言葉に、またイライラさせられる。