「あのですねえ、樹生(たつき)様。いくら私達が貴方様の監視役を任されているとはいえ、深夜は流石に勤務時間外なんですよ? これで何度目です、ちゃんと分かってますか?」

 眠そうに瞼を擦りながらも、その手にはしっかりと将棋盤が持たれている。見た目からしてお人好しの永美(ながみ)さんは、結局こうやっていつも白極(はくごく)さんに使われ続けるに違いない。
 それはきっと妹である遥香(はるか)さんにも同じなんだろうな、と少し気の毒な気もするけど。

「仕方ないだろ? 凪弦(なつる)が将棋しか出来ないなんて我が儘言うんだよ、俺の部屋にはチェス盤しか置いてないし」

 白極さんのその言葉で、私が永美さんにジトッとした目で見つめられる。いやいやいや、私はすぐに断りましたからね?

「え、ちょっと待ってくださいよ。いつの間にか私の所為みたいになってるじゃないですか!」 

「そりゃ凪弦のせいだろ? お前がご主人様に合わせるのが普通なのに、お前に俺が合わせてやってるんだから」

 だったら最初からチェスの出来る方を雇えば良かったじゃないですか! しかもこんな深夜にでも喜んで白極さんの相手をしてくれる美人で有能な秘書を!
 同居の初日からこんな目に合わされて理不尽な扱いを受ける、これは人が次々に辞めていくのも納得出来る。こんな面倒な人達の相手をしなきゃいけないのだと思うと私も逃げ出したい気持ちになるし。
 ……まあ、昼間にアパートの部屋を引き払っていなかったならば、の話だけど。