暁のオイディプス
序章
 どの帝の時代だったか忘れたけれど、寝る前によく物語を読み聞かせてくれる女性がいた。


 私が眠るまでの間。


 たぶんそれは母だったのだと思う。


 もう顔も思い出せない、幼い頃に亡くなった母。


 でも声だけははっきりと覚えている。


 ……後年、母がよく読んでくれていたその物語は、かの有名な『源氏物語』だったのだと気付いた。


 偶然にも主人公・光源氏の立ち位置は、今の私のそれに酷似している。


 母を早くに亡くしして。


 父はこの国の権力者で。


 ……ただ残念なことに、私には「光り輝くような容姿」までは備わっていない。


 物語の設定が今の自分にたまたま似ているだけに過ぎない。


 平凡なこの私と、この世を超越した存在ともいえる光源氏とは、あまりにも違い過ぎる……。
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