暁のオイディプス
***


 「そなたは父親と違って教養もあるから、話していて楽しい」


 ……この方はいつも私を褒めてくださる。


 父親にはいつもけなされてばかりで、褒められ慣れていない私はどう答えていいか分からず、いつも黙り込んでしまう。


 「そう、この鷹のように賢い」


 土岐頼芸(とき よりのり)様は左腕に止まった鷹に餌を与えながら、私に告げる。


 「鷹は凛々しいのみならず、人が思う以上の賢さを備えている。その奥深さには未だに、驚嘆させられてばかりだ」


 「狩りの時なども、まるで人間の言葉を理解しているかのように、命令に従いますよね」


 土岐様の腕に止まる鷹の爪を見てみた。


 腕には防御のための布が巻かれているが、それがなければ爪に切り裂かれて血まみれになってしまうだろう。


 「この凛々しさを後世に伝えたくて、絵筆を執ってみるが、なかなかそのままに描くことは難しい」


 「先日完成されました絵巻物の鷹も、用紙から飛び出して来そうなほどの筆致にございました」


 土岐頼芸様は、現在の美濃守護。


 守護代である父・利政は土岐の御屋形様の部下であるはずなのだが、今や父がこの美濃の国の実権を握ってしまっている。


 源氏の血を引く名門土岐家にもかかわらず、複雑に枝分かれした名門家ゆえに後継者争いなどが激化し勢力が衰え、その間隙を突いて父は美濃の支配者に登りつめたのだ。


 とはいえ土岐の御屋形様が父の主君であることには変わりなく、その主君を手にかけるようなことがあっては周辺諸国の非難を浴びるので、形だけの主君としてではあるが父は丁重にもてなしている。


 その嫡男である私は、なぜか土岐の御屋形様には気に入られている。
< 10 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop