暁のオイディプス
***


 「え、縁談ですか」


 「お前ももう二十歳を超えた。妻を迎えても何ら不思議のない年齢だ」


 「しかし……」


 父に重臣たちの前でいきなりそんなことを言われ、私は戸惑った。


 確かに年齢的には身を固めるべき年頃ではあるものの、誰かを妻にしたいなどと考えたことなどないし……。


 「斎藤家の嫡男の正室に相応しい姫として、越前(現在の福井県)の浅倉家などはいかがかと思ったが、」


 「朝倉家!? 超名門の浅倉家が、我が家のような成り上がり者を認めるはずがありません」


 つい口走ったその言葉に、父は激怒するかと危惧したが、


 「……残念ながら現在朝倉家に、適齢期の姫君はおらぬそうで、朝倉家との縁組は難しい」


 私の失言を無視して、父は続けた。


 美濃の斎藤家は、代々守護の土岐家を支えてきた名門ではあるが。


 断絶の危機に乗じて、父が養子縁組などを駆使して乗っ取ったも同然なので、周辺諸国は当然父を成り上がり者とみなし、自分たちの血筋と同等だとは認めていない。


 それゆえ父は軍事的成功を積み重ねることによって周辺諸国に権威を認めさせ、同等の地位に昇りつめようと努力しているのだが。


 加えて私には身分の高い妻を迎えて、我が家の血筋を高貴なものにしようと企んでいるらしい。


 「年齢の近い姫がいない場合は、親戚筋の姫を養女に迎えた上で嫁がせてもらう手もあるが。同様に都の公家の姫という手もあるし、もしくは近隣の浅井家から迎え、それと引き換えに軍事同盟を強固なものとする手段も……」


 「お、お待ちください父上」


 勝手に話を進める父の話を遮った。


 「私はまだ妻を迎えるつもりはありません」
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