花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 2人で墓に水をかけて、優しく拭き上げた後、花を添える。線香を焚いて2人で手を合わせる。
 その時間は1分にも満たなかったが、凛と花は雅に語り掛けた。
 今まで何があったのか、どんなテディベアが出来たのか、依頼が少しずつ回復していることや、花のレース編みのドレスが商品化する予定だったり。それでも話したりないぐらいだった。


 「雅さん、どんなテディベア作ってるかなー?」
 「どうだろうな。昔、和服のテディベア作ってみたいとか言ってたな」
 「へー!面白そう。着物可愛いだろうなー」
 「いや、武士みたいな恰好がいいんだと。あいつ、意外と戦国もののゲームとか映画好きなんだよ」
 「そっちなんだ。でも、女の人は嬉しいかもね。男の子のテディベアの注文も増えてきたしね」


 雅に会いに行った帰り、2人はゆっくりと歩きながら彼の話で盛り上がる。
 今でも、きっと凛と花の仕事ぶりを見て応援しながらも、自分でも作っているはずだ。あちらの世界では、雅の祖父もいるのだ。2人で仲良く作っているのではないか、とよく話をしていた。

 凛が1人で店の切り盛りをするため注文数を減らす事をアナウンスすると、雅が亡くなった事を悲しみ沢山の花や手紙が送られてきた。そして、もちろん凛への激励も。
 そんな中、SNSで花浜匙のテディベアを使って旅先での写真をアップしている人が注目を浴びた。その場所の雰囲気を変えながらそのテディベアと旅をしているのだ。それが「かわいい!」とコメントが殺到し、花浜匙への注文も殺到した。そのタイミングで花のレース編みの洋服も紹介していたため、洋服の注文もかなりの数がきていた。そのため、仕事帰りにも店に寄ったり、自宅でも作ったりしながら何とか納品していた。


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