花筏に沈む恋とぬいぐるみ




 川からぬいぐるみを落とす最低の男だと思っていたはずなのに。
 そこから数時間で彼を見る目が変わってきている。

 本当は悪い人ではない?


 けれど、花はその感情をそれ以上考えないようにする事にした。
 初めて会った人に優しくするのは当たり前だろう。たった数時間なのに、信じられる要素などないではないか。温かいお風呂とご飯を貰っただけで懐いてはダメだ。
 花は少し気が緩んでしまっていた事に気付き、改めて背筋を伸ばして座り直した。
 まだ名前と職業しか知らない相手だ。
 さっさと依頼を済ませてもらって、この店から出ていこう。

 依頼が終われば、もう関わる事もない人なのだから。


 そう思い、花は牛丼を食べる手を早めたのだった。





 夕食を食べ終わった後、凛は住居スペースから大量のオーダー表を持ってきた。
 ぶ厚いファイルが何冊もある。そして、どれも大分古いものだと一目でわかった。


 「これ全部がオーダーした時のメモなの?」
 「そうだな。祖父が引退したのが10年前だから、それ以降のものになるけど。いつごろオーダーしたのかわからないから、最後にしたものからさかのぼっていこうと思ってる」
 「凛さんの叔父さんは長い間お仕事されていたんでしょ?すごい数なんじゃ」
 「そうだね。夜中になる可能性があるかな」
 「………」


 きっと何十年もの年月、テディベアを作り続けていたはずだ。そうなると依頼の数も増えているはずだ。



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