花筏に沈む恋とぬいぐるみ





 「あれ?……もう朝かー」


 ぬいぐるみを抱きしめていると、ソファで寝ていた凛が大きなあくびをし、目を擦りながら起きてきた。まだ大分眠いようで、半分ぐらいしか目が開いていない。夜遅くまで花の依頼をこなしていたのだろう。
 早々と寝てしまった自分が申し訳なく、花は「すみませんでした」と頭を下げた。


 「自分が依頼をお願いしたのに、寝ちゃうなんて。……すみません」
 「あぁ、花ちゃん!おはよう」
 「お、おはようございます……」


 花の謝罪を受けても、にこやかに笑い挨拶をする凛。そして、その後に花への返事が続くが全く気にしていないようで、笑みのままだった。


 「花ちゃんは依頼主なんだから。寝てていいんだよ。依頼料は貰ってるしね」
 「そ、そうなの、かな?」
 「そうそう。それにしても……そのクマ様、気に入ってるんだね」


 すっかり目を覚ましたのか、凛はクマを抱きしめている凛を見て目を細めて嬉しそうに言った。
 花は気恥ずかしさを感じて、すぐに後ろを向いた。


 「依頼の件、わかったよ」
 「えっ!本当に……っ!」
 「でも話は腹ごしらえをしてからにしよう。昨日の牛丼屋さん、朝食もやってるんだ」
 「………朝から牛丼?」
 「違う違う。行ってみる?」
 「………」


 昨晩からご飯に釣られる動物のようだなと、思いつつも誘惑と空腹には敵わず、悔しさを浮かべた表情のまま頷いてしまったのだった。




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