花筏に沈む恋とぬいぐるみ




 「あっ……」


 このファイルは花浜匙にとって大切な物のはずだ。それを凛は貸してくれたのだ、1枚の写真もなくしてはいけないのだ。慌ててその写真を撮り、元に戻そうとする。
 が、その写真に写っていたものは、テディベア用の洋服ではなかった。

 見たことがある風景に3人の男の人が写っている写真だった。
 そこは今日花が訪れた花浜匙の店先。あの店の看板の下で撮られたものだった。
 そこには、白髪交じりと老人と、青年が2人立っていた。老人は、とても優しい笑みで、テディベアを手にして微笑んでいる。そして、隣には黒髪の青年が仏頂面で立っている。その顔を見て、花はすぐに誰かわかった。高校生ぐらいの凛であった。髪も短く、若いが顔は変わっていない。だが、いつもニコニコしている今の凛からとは全く違うに不機嫌そう表情だった。思春期の頃だろうから、凛もそんな時期があったのかもしれない。
 そしてそんな凛の近くには、満面の笑みで正面を見て微笑んでいる青年がいた。当時の凛と同じぐらいの年代だろう。老人と凛の間に立ち、とても幸せに笑っている。茶色の髪がふわりとして、身長も高い。凛は見た目は落ち着いた神秘的な雰囲気を持っているが、その青年は人懐っこく万人に好かれそうな雰囲気を持っていた。


 「もしかして………」


 花浜匙の前で撮られているという事は、凛の知り合いなのだろう。そして、彼らの距離は家族のように近い。
 凛もとても楽しそうだ。そうなると、凛とその茶髪の青年は仲がいい存在だったのだろう。
 そうなると考えつく事は1つだ。
 この茶髪の青年は、誰なのか、と。
 



< 66 / 147 >

この作品をシェア

pagetop