販売員だって恋します
11.まさかの事態
一方の由佳は、胸がドキドキするのを抑えるので精一杯だった。

ずるい……。なんで、こんな風に心の準備をしていない時に。

大藤のチャコールグレイのスーツは、明る過ぎず、沈み過ぎず、絶妙なバランスだ。
中に着ているベストに、やや明るめの色を合わせていて、そのせいで若干、華やかに見えるせいかもしれない。

着ているものはいつもと違って華やかなのに、髪型はいつもと同じ、隙のないバックスタイル。

いつもの落ち着いた雰囲気とは違う、その姿には、どきどきされられる。
ぎゅうっと、胸を引きしぼられるようだ。

冷静に考えれば、こんな社交の場なのだし、成田家が招待されていることはあり得ることだった。

「こんにちは。」
聞き覚えのあるその声に、由佳はどきんとする。

「こ……んにちは。」
顔を上げると、そこには緩く微笑む大藤だ。

いつもと変わらないその様子に、由佳は泣きそうになる。

だってこの人はきっと、私が誰といてもヤキモチなんて妬いてくれない。
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