販売員だって恋します
12.彼女とは……
少しクールダウンしてから、いらっしゃい。

名残り惜しげに身体を離しながら、大藤は由佳を見つめて眼鏡の奥の目を少しだけ細めて、指の背で由佳の頬を撫でた。

そう言われて、ふわふわとした気持ちで、ドレスルームに向かった由佳だ。

その中の椅子に、へたり込むように腰をかける。
顔が熱い。

お、想い合っていた?
堪らない?
は、離さないって……何?!

由佳はハンドバッグから、お化粧直し用の化粧水スプレーを取り出し、普段より多めに顔にスプレーする。

少しひんやりした。
それでもどきどきするその鼓動は、なかなか収まらない。

泣きそうなんだけど……。

絶対に思いが通じることなんて、ないと思っていた。
好きになってはいけない人なんだと。

バッグからリップブラシを取り出して、リップカラーを少し筆に取る。

唇の形を取りながら、どきどきしている胸の響きを抑えることがなかなか出来なかった。
< 116 / 267 >

この作品をシェア

pagetop