氷雪の王は温もりを知る

氷雪の王

 話し終えた私は、カップに残っていた白湯を一気飲みする。
 ぬるくなっていたが、全てを話し終えて、肩の力を抜いた身体を落ち着かせるには充分であった。
 傍らにカップを置くと、目を見開いてじっと私を見つめるポランに気づいたのだった。

「嘘じゃなかったんだな……」
「信じてもらえますか?」
「にわかには信じ難い。だが、お前が嘘をついていなかったのは今の話でよくわかった。その上で謝罪させてくれ」

 ポランは立ち上がると、先程見たのと同じ高そうな靴の踵を鳴らして、ソファーに座る私の目の前に膝をつく。
 そうして、「すまなかった」と白藍色の髪が床に落ちるまで深く頭を下げたのだった。

「や、やめて下さい! 王様なんですよね!」
「王様だが、この国を治めるどころか、無実の罪で人を凍死させようとした不出来な王だ。……本当は私が治めない方が、この国は豊かになるのかもしれん」
「そんな事は……」

 その時、部屋の扉が控え目にノックされた。
 ポランは立ち上がると、視線を向けたのだった。

「誰だ?」
「私です。ポラン様」
「フュフスか。入れ」

「失礼します」と言って入って来たのは、ブロンド色の髪をうなじまで伸ばした若い男であった。
 男の顔には見覚えがあった。いつもスープを運んできた男だった。
 ポランも整った顔立ちをしているが、よくよく見ると、この男も整った顔立ちをしていた。

「お嬢さんのお部屋の用意が整いました。一緒に食事と湯浴みの用意もしております」
「助かる。おれが取り上げた荷物と服は?」
「お部屋に運んでおります」

 やや明るい声からこの若い男が、あの時、ポランと話していた者だと気づいた。
 じっと二人を見つめていると、視線に気づいた若い男がニコリと微笑んだのだった。

「お嬢さんの正体は判明したのですか?」
「どうやら、本当にこの城に迷い込んだだけらしい。何も怪しいところは無かった」
「そうでしたか……」

 若い男は私の前に膝をつくと、ポランと同じ灰色の目を細めたのだった。

「この度は辛い思いをさせて、申し訳ありません。わたしはフュフスと言います。ポラン様の執事と執政官を兼任しております」
「とんでもありません! 私は真白と言います」
「真白様ですね。これからどうぞよろしくお願いします」
「真白、フュフスはおれの乳兄弟だ。この城の事は全てフュフスがやっている」
「全てではないですけどね。使わない部屋は鍵を掛けて掃除の手間を省いて、雪掻きは国民にも手伝ってもらっています」

 二人は顔を見合わせて微笑を浮かべると、再び私に視線を向けたのだった。
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