涙の涸れる日

フェルメール

 歩いて五分程先に美術館がある。

 フェルメール展と大きく書かれていた。

「えっ? フェルメールですか?」

「そうみたいだね」

「私、大好きなんです」

「そう。なら良かった」
美術館の中に入り入場料を支払う。

「あっ。自分の分は出しますから」

「良いよ。これくらい」

「でも……」

「じゃあ後で、お茶をご馳走してもらうよ」

「はい。分かりました」
展示会場に入る。

「わぁ、凄い。全部フェルメールって凄くないですか?」

「そうなの?」

「はい。フェルメールは現存する絵画は三十五点位しかないんです。それなのにこんなに沢山見られるなんて」
紗耶は本当に嬉しそうに言った。

 それぞれの絵画をゆっくり丁寧に鑑賞していく。

 本当に好きなんだと彼女の様子を見れば良く分かる。
 ここに連れて来て良かったと心から思った。

「オランダに行かないと見られないから、いつか見に行きたいって思っていたんです」

「海外旅行は何度も行ってるんじゃないの?」

「でもオランダには行った事がなくて……」

「そうなんだ。いつか行けると良いね」

「でも、きょうここで見られたから満足です」

「そうか」

「あっ。この絵……」

「どうしたの?」

「フェルメールって殆どが人物というか室内画で風景画は二点しかないんです。この絵、【デルフト眺望】って言うんですけど凄く見たかったの」
本当に嬉しそうで、そんな姿を見ると俺まで嬉しくなる。

「あっ。これがもう一点の【小路】です」

「うん。素敵な絵だね」

「はい。やっぱり画集じゃなくて本物は素敵です。何百年を超えてここにあるのが素晴らしいです」
彼女の興奮が伝わって来る。

「後は【真珠の耳飾りの少女】が見られたら……」

「それは俺も知ってるよ」

「有名な絵ですものね。あっ、あった」
涙ぐみそうになって絵に見惚れる彼女が本当に可愛かった。

「この青。ラピスラズリって半貴石、宝石なんですけどそれを顔料にして書いているんですよ。本当に会いたかったの」
まるで久しぶりに会う親友のように見入っている。

 美術館に連れて来て良かった。知らなかった彼女の一面が見られて感動すら覚えた。

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